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医師対談


若手外科医が教授に切り込む
多様性時代におけるワークライフバランス
~外科学第二講座 座談会~

対談メンバー

竹内裕也
職位:教授

大林未来
職位:静岡県立静岡がんセンター レジデント

見原遥佑
職位:医員

立田協太
職位:大学院生

阪田麻裕先生

阪田麻裕
職位:助教
今回インタビューアーを兼任していただきました!

阪:本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。
まずは当医局(外科学第二講座)の特徴や強みについて、簡単に竹内先生からご説明をお願いいします。
竹:いきなり難しい質問ですね。そうですね、まず、昨今の外科医療を取り巻く環境にについてお話ししましょうか。昔から外科というのは、その難易度の高い知識・技術を有することから“医師の花形”とされていました。その一方で、3K(キツい・暗い・汚い)と揶揄されるほどの過酷な業務がつねであり、どうしても敬遠されがちな診療科だったわけです。そんな流れが近年になって一層加速し「外科は若手医師から人気がない」「外科を希望する若手医師がいない」という状況になってしまいました。これは浜松医大に限ったことではなく全国的な傾向です。深刻な外科医不足というのが外科医療における大きな問題となっているんですね。
阪:「外科医をいかにして増やしていくか?」が医局としての重要課題となっていますね。

竹:その通りです。そこで人材確保に注力するために当医局が強く推し進めたのが【外科医のワークライフバランス】の充実です。ホームページにも記されていますが、持続可能な開発目標(SDGs)と銘打ち、ワークライフバランスに特化したさまざまな対策や体制を整えてきました。

立:ワークシェアの推進、毎日の当直の廃止、男性の家庭進出の推進…といった内容でしたよね。

竹:そうですね。時代の流れでもありますが、医師の働き方改革も待ったなしの状況です。仕事だけでなく家庭やプライベートにも時間を割ける「働きやすい環境」を整えていかないと、外科医を志望する人はもちろん、当医局で働きたいという人もどんどん減少していってしまいますから。
 
見:竹内先生をはじめ医局全体のご尽力のおかげで、当医局のワークライフバランスは着実に改善されているのは実感しています。もちろん「働く時は働く、休む時は休む」といったメリハリが大切なのですが、全体的に業務の過酷さの水準が下がってきたのは確かで、その分、ライフの部分の充足につながっています。参観会や運動会など、子どもの学校行事にも参加できる機会が増えました。
 
立:私が最近実感しているのは有給の取りやすさです。「誰がどのくらい消化できているか?」をカウント方式で可視化されるようになりました。ある意味、有給消化の数で競争しているような感覚で、自分の都合に合わせて堂々と休みが取れるようになりましたね。
阪:立田先生は育休制度もしっかりと活用されていましたね。

立:はい。約1ヶ月間という限られた時間でしたが、育児中心の生活を経験できたことはこれからの医師人生においても何かしらの財産になるような気がしています。欲を言えば、みっちり1年くらい育休があってもいいのかなとも思いましたけど(苦笑)。もちろんそのためには、休んでいる間でも無理なくキャリア形成ができるシステムなどが必要となってきますが。

大:産休・育休制度については、私たち女性医師にとっても大きな関心事です。実は今、すごく悩んでいることがあって…。聞いてもらってもいいですか?

竹:もちろん、どうぞ。

大:最近になって改めて、今後のライフプランについてもっと現実的に考えなくてはいけないなと思うようになったんです。外科医としてのキャリアプランを考えると、できる限り継続して第一線に身を置きたいという気持ちがあるのですが、一方で、結婚して子どもを産むという選択肢を切り捨てることもしたくないんですよね。近い将来のどこかで、仕事を取るか? 結婚・出産を取るか? の選択に思い苦しむことになった際、「どの道に進むのが最適解か?」を想像することがすごく難しいなって…。
 
竹:これは大林先生に限らず、全国の女性医師の悩みですよね。同じ女性医師である阪田先生にご回答をいただきましょう。

阪:竹内先生がおっしゃる通り、これは女性医師にとっての長年の課題です。特に出産については悩ましいですよね。「レジデントの時期には妊娠しちゃいけないのでは?」とか「産休・育休を取ることで周囲に迷惑をかけるのでは?」とか「キャリアプランが狂ってしまうのでは?」など、どうしても潜在的に考えてしまいがちです。ただ、私からのアドバイスは「出産のチャンスがきたのなら掴んだ方がいい」です。なぜなら、出産というのは、女性の人生において限られたタイミングの時にしかできないことだから。私も医師として働きながら2人の子どもを出産しましたが、そこに後悔はありません。子どもを産むことは国にとっての財産になりますし、「命懸けで産む」という経験をすることは、今後多くの患者さんと接する中で大きなメリットになると考えます。「医師だから」といった理由で、出産を諦めたり、育児をすることに後ろめたさを感じる必要はないと思います。むしろ、後ろめたさを感じさせるような社会を私たちで変えていかなければならないと思っています。
 
大:力強いお言葉ありがとうございます。ただ、そうなると、出産を選択することでキャリアプランの立て直しも必要になってくるのではないでしょうか?

阪:その点で、当医局のSDGsをはじめとするワークライフバランスへの取り組みが大きな威力を発揮してくれます。産休・育休後に復職した医師に対してのしっかりとしたバックアップ体制だったり、周囲の理解といった面もかなり行き届いていると思います。出産・育児を経験した私たちができることは、無理のない範囲で、できることをすること。例えば、当直を外してもらう代わりに隙間時間にできることを在宅ワークなどで補うことで、チームの一助となることが可能です。

立:外科医として働いていく中ではどうしてもワークの方に偏りがちになってしまいますが、その中でもできるだけ天秤が釣り合うようにしていくということですね。そのためには医局全体の理解に加え、具体的な対策や体制づくりが必要不可欠ということだと思います。

見:多くの若手医師の本音は、仕事のやりがいももちろんですが、同時に、プライベートも大事にしたいということ。そして、コスパやタイパといった部分もすごく気にしています。

竹:そこが、いわゆる【多様性】の部分なんですね。当医局が目指すのは、一人ひとりのやりたいことを尊重し、柔軟な対応を交えながら、何とかして叶えるための具体的な行動に落とし込んでいくこと。そんな姿勢をより多くの人に見ていただきたいと思っています。古き悪きやり方で「若手はこれをやっていればいいんだ!」なんて頭ごなしに押し付けるスタイルでは、ますます外科の人気が下がっていってしまいますからね。

見:ワークライフバランスと働き方の多様性というのは一心一体なんですね。

竹:私が浜松医大に来て驚いたのは「一人ひとり目標とするところが違う」ということでした。都会の大きな医局だと、医員の大半は、何より自身のキャリア形成を最優先にしています。研究だったり、高度な知識・技術の習得に没頭するのが普通なんです。しかし、この静岡という土地はちょっと違っていて、最先端の医療や研究にどんどん取り組みたいという人もいれば、地域のコミュニティで信頼される医師になりたいという人もいるし、とにかく家庭の時間を大切にしたいと考える人もいる。つまり、目標のバラエティが広いんです。ですから、医局から「こうしてほしい」「こうなってほしい」と一方的な道筋を決めるのではなく、一人ひとりが持つさまざまなニーズに対し、ひとつひとつ丁寧に寄り添っていく体制づくりというのが、当医局の本来の役割であると気づきました。
阪:一人ひとりの声に応えていくのは、なかなか難しいことですね。
大:医局全体の共通意識だったり、医員同士の助け合いや支え合いが重要になってきますよね。

竹:そうなんです。そして、助け合いや支え合いをするために、どうしても頭数が必要になってくる。なかなか理想通りにはいかないかもしれませんが、止まっているだけでは何も変わりませんからね。

立:ちょっと気になっていることがあります。ワークライフバランスの改善について異論は全くないのですが、一方で、あまりにも若手医師のことを大事にし過ぎるような風潮も危険だと思っているんです。竹内先生がおっしゃった通り、人それぞれで目指すところが違っているので、中には「過酷でもいいから高みを目指したい」という、やる気や情熱に溢れる若手も一定数存在しています。例えば「当直明けはすぐに帰れますよ」というアピールをしても「そんな甘い対応でちゃんと教えてもらえるんですか?」と拒否反応を示す人とか。

竹:そこもバランスを取るのが非常に難しいところなのですが、現状で私たちにできることは、そういった一人ひとりの要望や意見を取りこぼすことなく、オーダーメイド的な解決策を導き出していこうとする姿勢だと思っています。地道な作業なのかもしれませんが、多様性にコミットしていくにはそれしかないのかなと。

見:私たちにとってすごくありがたいのは、今、竹内先生がおっしゃった「取りこぼすことなく」という部分です。当医局は本当に風通しがよくて、若手でも気兼ねなく意見が言える雰囲気がありますよね。理不尽な上下関係などなく、職位などの垣根を超えた円滑なコミュニケーションができる環境だからこそ、一人ひとりの要望や意見にも真摯に向き合うことができる。これは当医局ならではの大きな魅力だと思います。

立:確かにそうですね。竹内先生をはじめ、教授や指導医から積極的にコミュニケーションを取ろうとする医局というのは全国的にも珍しい(特に外科では)。他の大学から見学に来た先生方からも「こんなに教授と話せる環境なんだ」という声がよくあがります。

阪:「教授と話すなんて年に数回」「恐れ多くて話すことなんてできません」なんていう医局も少なくありませんからね(苦笑)。

見:ご飯に連れて行ってくださったり、トイレや廊下でお会いした時に「元気?」と声をかけてくださることが、どんなに特殊なことかがわかりますね。
 
大:外科というと、上下関係が厳しくて、何事もトップダウン方式という印象がありますが、当医局に限ってはその風潮は皆無と言っていいほどです。私も竹内先生には仕事のことからプライベートのことまでいろいろ相談に乗っていただいています。お忙しい中でもいつも親身になって聞いていただけるので、つい何でもお話してしまうんですよね。

竹:うちはかなり上下関係がゆるいからね。私がそういうの嫌いだから。

大:一般的な外科の印象に囚われている人ほど、当医局に見学に来ていただければ「いい意味で思っていたのと違う」というのがわかってもらえますよね。
阪:せっかくの機会ですので、他に竹内先生に聞いてみたいことはありますか?
立:はい! ええと、私は日々の忙しい業務の中でもいろいろと新しいことに挑戦していきたいですし、手術も上手くなりたいですし、漠然とですが、将来、何か大きなことをやり遂げたいと思っています。その一方で、世帯を持っているので家族との時間も大切にしたいという気持ちもあって…。つまり、わがままな性格なんです。前述された通り、現況でも医局としてさまざまな「働きやすい」体制を整えていただいているのですが、正直なところ、それでもなかなかワークライフバランスを確立するのが難しいなと感じることがあります。前置きが長くなりましたが、そこで質問です。ズバリ、竹内先生が今の私の立場だったらどういう選択をし、どういう考えでキャリア形成をしていきますか?

竹:面白い質問ですね。そうだなぁ…。私だったら、キャリア云々はあまり考えず「自分の好きなこと」に没頭すると思いますね。私も立田先生と同じく、若い頃は新しいことや知らないことにいろいろ興味を持つタイプでした。レジデントの頃から上部消化管を専門としていましたが、30代の前半くらいまでは、移植の勉強もしていましたし、乳腺外科の領域にもかなり足を踏み込んでいましたからね。そういったさまざまな経験を重ねていく中で、自分が一番やりたいことは何か?を考えるようになり、私の場合は「食道がんの患者さんを一人でも多く治したい」という結論に至ったんです。

立:そうなんですね。

竹:そんな私の経験則からいうと、外科医にとって一番大切なのが30代の10年間だと思います。どんな形であれ30代をがんばり切った先に、明るい40代が待っているような気がしています。30代というとちょうど外科研修が終わり、外科医として本格的なスタートを切るタイミングですよね。専門領域はもちろんですが、外科医として働く中で「好きなこと」「興味のあること」があったらなら積極的にチャレンジしていくことが大事なんじゃないかな。その中で何か迷ったり、困ったことがあったら、その都度、私に相談してください。声を掛けてくだされば、医局全体で全力でサポートしていきますので。
 
立:ありがとうございます。もしタイムマシーンがあったら竹内先生の若かりし頃を見てみたいと思いました。

竹:毎晩ガンガン呑み歩いている姿が見られるだけですよ。

大:私からも質問いいですか? 現在、私は医局外で働いているのですが、他の医局からきた先生方を見ていると、論文や統計などのアカデミックな部分や手術などの技術的な部分で「すごくよく教育されているな」と感じることがあります。もちろん、浜松医大でも高いレベルの診療・研究を行なっていますので、内容的には他の医局より劣っているということはないと思うのですが、その知識や技術を落とし込む“教育”の部分に、もっと改善できる部分があるのではないかと感じるようになりました。竹内先生はその点についてどうお考えですか?
 
竹:貴重なご意見ありがとうございます。教育の部分に関しては、おっしゃる通り、まだまだ改善の余地がありますね。これを解決するのは、指導医をはじめとするスタッフの意識だと思います。それぞれが持つ得意分野だったり、経験や技術の継承といったものを、より明確に、わかりやすく若手医師たちに教育していくシステムが必要ですね。これは早急に取り組むべき課題ですので、近いうちに何かしらのアクションを示したいと思います。

阪:教育に関しては、学会でも議題に上がっていましたね。全国的な共通の悩みのようです。若手医師から「手術スキルをアップさせたい」「学術活動に取り組みたい」という声が上がっても、どのように学ぶ機会を作り出せばいいのか? どう学ばせたらいいのか? がわからない状況のようです。加えて、中堅医師からは「研修医や学生への接し方がわからない」という悩みも多く聞かれました。

竹:何か具体的な解決策は示されましたか?

阪:話し合いの中で、全国の病院が持つそれぞれの得意領域をシェアし、教育コンテンツを作り上げ、学会員が自由に利用できるような学びの場を作っていくのはどうか?という話になりました。当医局でもそれに賛同し、協力していくための準備をしているところです。話は変わりますが、教育の面のアピールポイントとして、竹内先生が発起人となって運営を開始したビデオクリニック「コロンベア」が好評です。浜松医大と関連施設が参加し、月に一度、若手医師の手術手技を一緒に勉強する会ですね。

竹:浜松医大には関連病院も含め、いろいろな医師がいて、教えられる領域も多岐に渡ります。ですので、その強みをもっと活かした教育の仕組みを構築していきましょう。今まではライフワークバランスがメインでしたが、教育の大切さを再認識できたこともこの座談会の大きな収穫です。
阪:本日はお忙しい中、ありがとうございました。
最後に、今回ご参加いただいた若手医師のみなさんの将来の目標を聞いて座談会を終了しようと思います。
見:手術を含めた臨床はもちろん、専門科以外の研究にもこれからどんどんチャレンジしていきたいですね。興味関心を持つことを忘れることなく、自身の成長を積み重ね、地域医療にも臨床にも貢献できる立派な医師になれるよう精進していこうと思っています。

立:竹内先生が掲げられている「地域と世界に貢献する浜松医科大学外科」「病気を治すだけでなく患者さんの心に寄り添う医療」を胸に、浜松医大発の治験を世界に発信し、そのプロジェクトの中心として活躍できるような人物になっていきたいです。その上で子育てにももっともっと参加していきたいのですが…、欲張りですかね。

竹:いやいや、子どもと過ごす時間というのはかけがえのないものですから、ぜひ子育てと仕事を目一杯充実させてください。

大:医師としても、一人の人間としても、やりたいことや叶えたいことがたくさんあります。それらをひとつひとつ、楽しみながら実現させていけたらいいですね。そして、そんな私を見て「楽しそうだな」「こういう働き方っていいな」と思ってもらえるような外科医になることが目標です。

阪:ありがとうございます。ちなみにですが、もし、ある医学生から「浜松医大の外科に興味があるんですが」と相談を受けたら、竹内先生はどうお答えになられますか?

竹:みんな真面目で、どんなことにも一生懸命。胸を張って「絶対におすすめだからぜひ!」と答えますね。

阪:そうですよね。実は私、ちょっと前まで浜松医大にあまり魅力を感じていなかったんです。でも最近になって「すごくいいな」と思うようになりました。その人次第で何でもやらせてもらえると言うか、医局全体でその人の「やりたい」を全力で応援してくれるんですよね。論文を書きたい、研究をしたい、バリバリ手術をしたい、家庭に重きを置いたい…など、どんな目標であっても実現可能な多彩なフィールドがあります。これって、都会の大病院ではなかなかできないことなんじゃないかなって。静岡は、ほどよく外科医が足りない地域ということもあり、自分次第でどんな働き方もできる。当医局を一度でも見ていただけれれば、「多様性のある働き方ってこういうことなんだ」というのがすごくよくわかってもらえると思います。

竹:そう! 多様なニーズに応えられる医局です。「外科医を目指したい」「外科学に興味がある」のであれば、ぜひ私たちの環境をご覧いただきたいですね。